空想独立国家

ブロックチェーンでdecentralizedな社会を実現したい。

『公共貨幣 政府債務をゼロにする「現代版シカゴプラン」』

time 2015/12/21

お金はどこから来るのか。多くの人は中央銀行がお金を刷ったものが銀行を通じて出回ってくると思っているかもしれない。それは部分的には正しい。しかし市中に出回っているお金の約15%でしかない。残りの85%は、誰かが借金をした時に民間銀行が生み出している。そう聞いても何のことかぴんと来ない方は、まずはYouTubeで以下の動画を見てほしいと思う。

Money As Debt

“Money As Debt”は、動画で分かりやすく借金によってお金が増える現在の銀行システムを解説してくれている。今回紹介したい山口薫著『公共貨幣』も同様の問題を扱っているので、動画を見ておくと理解が深まると思う。『公共貨幣』では、さらに代替案についても詳しく論じられている。

本記事は、『公共貨幣』の中身を紹介しつつ、僕が興味を持っているブロックチェーンとの関わりについて論じてみたいと思う。要約としては次のようなことになる。

1.『公共貨幣』の内容紹介

  1. 銀行システムには「債務貨幣」という根本的な欠陥があり、過度な景気変動や政府債務の増大に重大な悪影響を及ぼしている。
  2. 債務貨幣を廃止するには、銀行が信用創造をできなくすればよい。法律を改正し「100%準備」制度に切り替えることで実現できる。それによって日本政府の借金も数十年で完済できる。

2.感想・意見

  1. フィンテック業界でブロックチェーンが大変注目されていてそれ自体は大変結構なことだが、銀行システム自体を見直す視点も必要ではないか。また、ブロックチェーンはパブリックな分野で応用されてこそ真価を発揮すると思う。
  2. 『公共貨幣』が提唱する100%準備制度をさらに推し進め、円を暗号通貨にしてしまって、通貨供給をコントロールする公共貨幣委員会を人が運用するのではなく、公開されたアルゴリズムに任せてしまえないか。

 

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1-1.債務貨幣の悪影響

信用創造の仕組みについては”Money As Debt”を見ていることを前提に概要の紹介にとどめる。『公共貨幣』(以下本書)では、以下のように流れを解説している。(p.89)

(1)企業がローンの申し込みをする。

(2)銀行が融資する(銀行の貸出の増加)

(3)銀行が融資額を企業の当座預金口座に振り込む(銀行の要求払預金の増加)

(4)企業がこの振込融資額を確認する(企業の当座預金の増加)

上記により、銀行の貸出(資産)と要求払預金(負債)、企業の当座預金(資産)と借入金(負債)が同時に増加する。結果として、企業の借入金の増加分だけ、要求払預金(マネーストック)が増加する。企業が借金を返済すると、同じ流れを逆回しにするので、マネーストックは減る。これが信用創造(破壊)であり、これを制度的に可能としているのが「部分準備銀行制度」となる。日銀の準備率は約2%前後ということなので、100万円の準備金につき4,900万円の貸出枠を銀行が得ることになる。

この部分準備銀行制度の元で、なぜ景気の変動が起き、国の借金が増え続けることになるのか。簡単に言えば、国が借金を返すとその分マネーストックが減ることになるので、その分経済活動に悪影響を与える。債務を増大し続ければいずれはデフォルトになるし、債務を減少させると景気が悪くなり税収減にもなるので、さらに増税か歳出減が必要となる悪循環に陥る。まさに「詰んだ」状態となっている。

日本の財政がデフォルトするかもしれないという話しになると、国の借金を国内で賄っているから大丈夫だという反論が出てくるが、その点についても本書で触れられている。2014年6月現在で日本の金融資産は1,645兆円で、債務残高は1,010兆円であるが、600兆円の余裕があるという話しにはならない。なぜなら、金融資産の内訳のうち、定期預金や保険、証券・株式等の合計が1,168兆円で、それらは既に間接的に国債購入にまわされているからだ。また、残りの477兆円のうち約400兆は現金とか普通預金で、日々の取引に必要なので国債購入にまわせない。著者の試算では国債購入できる余裕のあるお金は80兆円にも満たないということだ。今の借金増加ペースなら2年もたず、海外での販売ということになれば今までの「ギリシャとは違う」という反論もできなくなるだろう。

このまま債務の増大が続くと、「3つの破局シナリオ」のいずれかに落ち込むことになるという。1つは「金融メルトダウン」で、政府の債務増大が続くといずれ資金需給が逼迫し、金利が上昇する。金利が上昇すると国債価格や株価が暴落し、金融機関の倒産危機が起こり、リーマンショックのような金融恐慌が発生する。もし政府が金融機関を救済しようとして財政支出すると、2つめのシナリオの「ハイパーインフレ」が起きる。政府の債務が増大すると3つめの「デフォルト」の危険も増す。現行の債務貨幣システムの元では、いずれ3つの袋小路のいずれかに追い込まれることは必至だというのである。

1-2.中央銀行システムの改革

破局シナリオを回避するための改革案として、「100%準備制度」を著者は主張する。100%準備とは、部分準備銀行制度の準備率を100%に引き上げることなので、銀行による信用創造ができなくなるということだ。これはつまり、既存の中央銀行システムの廃止を意味する。こういった改革案は1930年代の世界恐慌後のアメリカでの「シカゴプラン」に遡る。そもそも部分準備制度が初めて生まれたのが1913年のアメリカ連邦準備制度からのことであり、世界恐慌自体がこの体制が原因で起きたのだという。歴史的経過は省略するが、「シカゴプラン」は頓挫し、今も部分準備制度は継続している。歴史的経過の説明についてはやや陰謀論的な記述が見られるが、著者は一定の距離を保った紹介に留めているし、銀行家たちの利益に合わないために反対勢力が強大であること自体は間違いないだろう。

著者が提唱する日本版の「100%準備制度・公共貨幣システム」の概要は以下のようなものだ。(p.249)

①公共貨幣の発行の権能は国会に属すとして、その権限を独立の公共貨幣委員会に委譲する。政府が現在55%所有の日本銀行を100%政府所有の公共貨幣庫とし、新たに設立する公共貨幣省に統合する。公共貨幣省は公共貨幣の製造、発行及び管理、運営の実務を行う。

②銀行の信用創造を禁止し、要求払預金の公共貨幣庫での預金準備率を100%とする。但し、準備率は日銀に於ける現行の約1%から段階的に引き上げてゆく。この過程で必要とされる資金は、公共貨幣省が無利子、無期限で貸与する。また銀行保有の国債で充当できるとする。

③経済成長や社会福祉等に新たに必要な公共貨幣は政府が財政政策を通じて流通に投入し、過剰な公共貨幣は同様に引きあげる。

公共貨幣システムの元では、貨幣の安定・金融の安定・雇用の安定・政府の債務完済・所得格差の是正・持続可能性の増大という効果が得られるとのことだ。政府債務についてのみ触れると、貨幣の発行権を政府が取り戻し、国債の償還期間が来る度に公共貨幣で全て買い取るだけで数十年後には借金が完済できるそうだ。国債を買い戻したお金によってインフレが起きるのではと心配したくなるが、公共貨幣システムにおいては買い戻したお金は100%準備金にまわされるので、市中に出回ることがなくインフレも起こさない。しかも、法律を2つ改正するだけで直ちに実行でき、移行措置についても大きな混乱もなくできると筆者は主張している。

2.感想

さて、ここまでお読みいただいた方は、そんなこと本当にできるのかと疑っているかもしれないが、僕も半分は同じ気持ちだ。著者は「システムダイナミクス」というシミュレーション分析手法を用いており、債務貨幣システムと公共貨幣システムの比較もそのシミュレーション結果に拠っている。僕も含めて一般人はそのシミュレーション結果を検証するのは難しいので、シミュレーションすればこうなるのですと言われたら、信じるか信じないかを選択することしかできない。ただ、僕としては以前から”Money As Debt”を見たことがあったので、中央銀行システムにこそ問題があるというのに納得できる部分はあった。また、日本の政府債務の増大はいずれ破綻を招き、ハードランディング以外の出口は、理論上はともかく政治的にはないと思っていたので、こんなプランがあるのかと率直に感心した気持ちもある。半信半疑ではあるが、財政破綻よりはましなので試してみる価値はあるのではというのが全体的な感想だ。

僕の関心事としては、ブロックチェーンを応用した社会制度を色々と考案できないかと思っているので、それに関連した意見を2点述べたい。

2-1.ブロックチェーンの意義

最近、フィンテック業界でブロックチェーンがバズワード化している感がある。もちろん業界関係者にとっては大きなことだし、お金が動くことでブロックチェーンに関心を持つ人が増えるのはいいことかもしれない。しかし、本書を読んだことで、やはり中央銀行システムの根本の欠陥を放置したまま、いくら効率化しても社会にとってはあまり有用なことではないという感を強くした。ブロックチェーンによって歴史上初めて、「信頼できる中央集権的機関なしに大規模な集団で合意が形成」できるようになった。これは様々な組織のガバナンスにイノベーションをもたらすものであり、応用の範囲は数えきれないほどだ。組織とか、意思決定とか、協働のあり方自体が変化していく。国や銀行のような中央集権的な仕組みを温存したまま、ブロックチェーンの利点だけを活用するような良いとこ取りは、早晩行き詰まると思う。パブリックな分野での応用によって国や銀行のあり方そのものが変質を免れないからだ。非中央集権的でオープンな形でブロックチェーンを活用してこそ、これまでにない新しい公正な社会システムを生み出せるのではないかと思う。具体的な応用例は今後も取り上げていきたいし、僕も現在プログラミングを学んでいるところなので、自分でも何か作れないかと思っている。

2-2.金融政策の非裁量化

これは現段階では空想の域を出ないが、本書で提案されている公共貨幣委員会のシステムについては、さらに暗号通貨やブロックチェーンで透明化・効率化できるのではないかと思う。100%準備制度に利点があるのは分かったが、政府機関が100%信用できるかと言えばそうでもない。国政選挙→国会による監視が空洞化していることは今更指摘するまでもない。

まずは円をすべて暗号通貨にしてしまう。その上で、委員会の選良に任せるより、どのように貨幣を供給するかをアルゴリズムとして公開し、それを衆人環視の中で運用した方が透明性が高まる。当初アルゴリズムは不完全なはずなので、裁量の余地も残しつつ徐々に改善していく。フィッシャーの交換方程式MV=PTはV(貨幣の流通速度)やT(財・サービスの取引量)はデータが得られにくく、大きな変動はないと仮定されていたが、暗号通貨においてはトランザクションがすべて記録されるので精度の高いデータが得られ、M(貨幣量)を調節しP(物価)の安定化を目指す金融政策の効果が実証できるようになる。そうすればどのような場合に貨幣供給を増やすべきかといったことがより良くわかるので、アルゴリズムを改良でき、いずれは一切の裁量なしにアルゴリズムに任せてしまえるかもしれない。裁量のない方が制度の予測可能性は高まるので、経済活動にとってより望ましい金融政策が実現できると思う。暗号通貨にすることで貨幣の製造費用や、決済手数料が効率化できるのは言うまでもない。

 

中央銀行システムを疑ってみるというのは普段考えもしないことだと思うので、現状の金融や経済のあり方に疑問や違和感を持っている人には『公共貨幣』の一読をお勧めしたい。

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