空想独立国家

ブロックチェーンでdecentralizedな社会を実現したい。

『なめらかな社会とその敵』をブロックチェーンの文脈でもう一度読んでみる

time 2015/07/17

今回は鈴木健著『なめらかな社会とその敵』を取り上げたいと思う。僕がブログの主テーマにしたいと思っている技術×政治・社会に関するアイディアが沢山詰まっており、発想を刺激してくれる良書だ。

内容を簡単に紹介する。近代の社会は国民国家を典型として、メンバーシップを厳密にすることで内と外を明確に区分してきた。それが行き詰まりを見せ、また一方でインターネットにより社会がフラット化していくとの見方もあるが、筆者はむしろ中間の形態である「なめらかな状態」に注目する。なめらかとは、内と外の区別はあるが、それが緩やかにつながっている状態だ。国家のような公と、個人の間に、ゆるやかな「共」の概念を生み出す。あらゆるものを私有と公有に振り分けるのではなく、ゆるやかに共有する。このような考え方に基づく新たな社会像を提示できないかというのが筆者の問題関心であり、その後に具体的なアイディアの提示が続いている。その具体的アイディアのうち、今回は「伝播投資貨幣PICSY」を取り上げてみたい。

伝播投資貨幣システム(PICSY:Propagational Investment Currency System)とはどういうものか。まず製造業を思い浮かべる。数字は適当だが、70円で仕入れたものを加工して100円で販売すれば、30円が粗利となる。70円の中間財を作っている業者も、元は40円で仕入れて加工したものかもしれない。会社間の取引においては、ある取引の影響は次の取引に及ぶ。そういった影響関係を、会社間の取引だけでなく、すべてのものに適用してみるというのが基本的な発想だ。外食のような消費財であっても、労働者にとって次の労働を生み出すための中間財であると考えるのだ。計算方法としては、例としてA・B・Cの3人の取引を想定する。AさんがBさんに0.2の価格で財を売る。次にBさんがCさんに0.3の価格で財を売る。Bさんが売った財の価値はAさんが売った財の価値を含んでいると考え、0.2×0.3=0.06がBさんとCさんの取引におけるAさんの貢献分ととらえる。こういった計算を複雑な取引のネットワークの中で行うには、行列計算を用い固有ベクトルを計算するそうだが、詳しく知りたい方は本書をあたってほしい。とにかく、こうするとどういうことが起きるのか。本書では良い医者と悪い医者の例が挙げられている。通常の貨幣経済においては、悪い医者は過剰な薬を投与することで儲けることができ、良い医者は不要な薬を売ることなく患者をすぐに治してしまうので、あまり稼ぐことができない。ここにPICSYを導入すると、患者の具合が良くなり社会に貢献すると、医者の貢献分が増えていくことになるが、患者が治らずベッドで寝たままであると、そのような貢献分が発生しない。こうして、医者が患者の将来を考えて治療することにインセンティブが働く。

社会制度を設計する上で、社会の利益と個人の利益をいかに調和させるのかは非常に重要な視点だ。社会にとって望ましくないが個人には利益があるような場合(盗みなど)、違反者に刑罰を科すなど何らかの強制を働かせる必要があるが、これにはコストがかかる。盗みや殺人などの犯罪であればコストをかけてでも断固として取り締まらなけばならないが、例えば消費税引き上げの際に見られた下請けに負担を転嫁するといった場合、どこまでが転嫁か判別するのは難しい。転嫁はダメだという法律を作ったとしても実効性が担保されず、法律を作っても掛け声に終わる典型的なケースだろう。強制ではなく、インセンティブに働きかける方が有効である場面は多い。社会にとって望ましいことが個人にとっても望ましいことになれば、それは強制によらなくても自然とその望ましい状態に近づいていく。その点で、PICSYは通常の貨幣よりも望ましい社会状態を広範に実現できる、優れたコンセプトだと言えるだろう。

とはいえ、PICSYの実現性を考えた時に、誰が誰に財・サービスを提供したかがすべて記録されなければならない。それを都度記録し、確定申告のような形で提出させたら、莫大な手間がかかり、現実的と言えない。だが、これにブロックチェーンによる暗号通貨を用いたらどうなるだろうか。暗合通貨は取引がすべて自動的に記録されるため、プログラムによってPICSYのコンセプトを内蔵させ、価値の伝播を自動的に計算することが可能となるのではないだろうか。PICSYにおいては、自分の財・サービスが本当に取引相手、ひいては社会に役立つことを考えることが自身の利益につながる。神の見えざる手が真に働く社会を実現できるかもしれない。

ブロックチェーンの技術は、デジタル革命がついにリアルな法・政治・経済制度まで変革し得るツールを得たと考えると、その潜在力の大きさがうかがえる。ビットコインは投機的な側面が取り上げられがちで、普及のためにはそれも必要なことであるが、ブロックチェーン技術を様々な社会政策に応用していける可能性については、もっと多くの人に気付いてもらいたいところだ。そのためにも、革新的なビットコイン2.0のサービスが早く出てきてほしいと思う。しかし、政治や経済の仕組みを根幹から変えてしまいかねないが故に、中々大胆なコンセプトが取り入れられることは難しく、アイディア止まりとなってしまうケースも少なくないのではないかと思う。そういった事態を防ぐためにも、アイディアを実験してみるための場が必要なのではないかと思うので、最後にその点を考えてみたい。

個人的には、既得権に配慮して諸々調整していたら一向に進まないので、海上都市を建設して実験国家を作ってしまうのが手っ取り早いと思っているが、残念ながら現時点では絵空事でしかない。著者もPICSYの実装アイディアで取り上げているが、オンラインゲームの通貨として採用するといった方法が考えられる。まずはバーチャルな空間で、仮想通貨の実装を色々と試してみるのが一番現実的だということだ。さらに考えを進めて、オンラインゲームの仮想通貨に取り入れるというより、仮想通貨を実験するためのゲームを作るという発想はできないだろうか。被験者も楽しんで参加することができれば、ゲーミフィケーションの文脈からも興味深いものになると思う。そしてバーチャルな環境である程度うまくいったら、経済特区で部分的に導入し、さらに実証実験を進めるという流れになっていくだろう。ブロックチェーン技術の応用や社会への適用方法については、本当に面白いことが色々と考えられるので、当ブログで度々取り上げていきたいと思う。

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